「飲み放題」では通常の2倍近く飲めてしまうのはなぜ?

今年8月に筑波大学が発表した報告によれば、大学生は「飲み放題」のときにアルコール摂取量が通常の1.7〜1.8倍に増えることが分かった。人はなぜ、飲み放題ではつい飲みすぎてしまうのだろうか。その理由を、「脳」の視点から考察してみたい。

「飲み放題」が与える影響(実験結果)

まずは、引用元の研究内容を簡単に紹介する。

筑波大学医学医療系の研究グループは、関東の大学生533人を対象に、飲み放題に関するアンケートを実施した。アンケートでは「飲み放題を利用したことがあるか?」「飲み放題の時とそうでない時の具体的な飲酒量は?」といった内容が尋ねられた。

その結果、飲み放題での飲酒量は、そうでない時と比べて、男子学生では1.8倍、女子学生では1.7倍にそれぞれ増えていることが分かった。さらに、男子学生の39.8%、女子学生の30.3%は、飲み放題の時に危険性のある多量飲酒をしていることも分かった。

日本人の4〜5割はアルコールに弱い体質であるにも関わらず、「飲み放題」では通常の2倍近い量を飲酒している可能性があることが明らかになったのだ。

飲酒量を増やす要因(考察)

この結果をふまえて、人はなぜ「飲み放題」になると飲酒量が増えるのかについて考察する。なお、以下の内容は、ニューロガストロノミー研究家である筆者個人の考察であることを明記しておきたい。

1)認知が原因:飲み会は「量」の感覚が麻痺する

人が飲み食いする量は、状況に応じて変化する。例えば、一人の時はあまり食べられなくても、誰かと一緒であればたくさん食べられるという経験をしたことがある人もいるだろう。飲み会には、飲食の量を麻痺させる要因がいくつかある。

一つ目は、飲み会ではその場を楽しむことに意識が向き、自らの満腹具合などをモニターすることへの意識が弱まりがちになる点である。一般的に、テレビやスマホを見ながら食事を摂るなど、食べることへの意識が低下した状態で食事を摂ると、食べる量が増えることが知られている。

二つ目は、他者の飲む量や食べる量を真似しようとする「ミラー効果」によって、その人個人の満腹感が変わってしまう点である。人は、無意識的に他者の動作を真似してしまうことがある。食事においても、他者の食べる量やスピードを観察しながら、自分の食べ方を変化させていることがある。

三つ目は、大きなピッチャースタイルで提供されたり、グラスのサイズが大きかったりすることが理由で、「一杯」の量が自然に増えてしまう点である。ポテチのパッケージのサイズが大きい場合は摂取量が増えるなど、食品の見た目の大きさによって、人の飲食量は左右されるのだ。

このように、そもそも「飲み会」という場は、通常時と比べて飲食の量が変化しやすい環境と言える。

2)心理が原因:「損をしたくない」が飲酒量を加速

加えて、心理的な原因も考えられる。人は、得をすることよりも、損をしたくないという「損失回避」の感情の方が強いと言われている(プロスペクト理論)。

飲むたびに価格が加算されていく場合は、人によっては「お金を使いすぎたくない」という損失回避が働き、飲む量を控える行動につながる。しかし、飲み放題では、お酒に強い人も弱い人も価格が一定であるため「なるべく多く飲まないと損だ」という損失回避が働き、飲む量が増える行動につながりうるのだ。

また「ラストオーダーのお時間です」といった声かけも飲酒量増加に影響しうる。無限にオーダーできる時間が有限であることを意識させられると、「希少性の原理」によって、最後の一杯が価値ある一杯に思えてくるものだ。また、オーダーしないことは、価値ある一杯を逃すことにつながり、ここでも損失回避の感情が湧いてくる。そして、最後の一杯を頼めるのは店員さんが来ているその時だけであり、自分の胃袋とゆっくり相談する時間もない。

その結果、「希少性の原理」と「損失回避」という本能的な意思に従い「ではもう一杯」と頼んでしまいやすいのである。

3)神経が原因:アルコールが空腹感を助長する

さらに、このような認知的・心理的な要因以外にも、アルコールそのものが飲食量を増やしている可能性もある。

お酒には糖分が含まれているため、通常であればお腹がいっぱいになりやすいはずだ。しかし、実際にはお酒を飲んでいる時ほど箸が進む場合もあるのではないだろうか。

2017年に学術誌『Nature』に発表された論文によれば、アルコールは、脳にある「AgRPニューロン」という神経細胞を興奮(活性化)させることが分かった。AgRPニューロンとは、通常、空腹のときに活性化し、私たちが何かを食べようとする行動を引き起こす役割を持っている。簡単に言えば「お腹すいたよ!」というシグナルを出すのだ。研究では、このAgRPニューロンが、アルコール分子によっても活性化することが明らかになった。

このため、アルコールは脳を「まだお腹が空いている」と勘違いさせることで、私たちの飲食量の増加につながっている可能性があると言える。ここで、飲み放題や食べ放題といった、飲食量に制限がないような環境が合わさると、余計に飲み食いしやすくなるのだ。


筑波大学の研究では食事量については調べられていないものの、飲酒量と共に食事量も通常より増えているのではないかと筆者は予測する。飲み会で仲間と盛り上がり、気分をリフレッシュしたり親睦を深めたりすることは大切だが、飲み会という場は食べすぎ・飲みすぎを引き起こしやすい環境であることは頭に入れておいた方が良いだろう。

執筆:大嶋絵理奈

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筑波大学のプレスリリース:飲み放題は大学生の飲酒行動にどう影響するか
Natureの論文:Agrp neuron activity is required for alcohol-induced overeating

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