人の「満腹感」を変化させる4つの食事環境

「一人の時は少量しか食べられないのに、誰かと一緒に食べる時にはいつもより多く食べられる。」あなたは、こんな経験をしたことがないだろうか。

人の満腹感はいつも同じなわけではない。食事の見た目や食事中の環境が、満腹感を変化させるのだ。満腹感を早めに感じることができれば、食べ過ぎを防ぐことができるかもしれない。

生理的な「満腹感」の決まり方

物理的に満腹感を決める要素は2つある。

1つは、「おなかいっぱい」という言葉に表われるような、”胃のふくらみ”である。胃は、入ってくる食べ物の量に応じて伸び縮みする。汁物や飲みものをたくさん飲むとお腹がいっぱいに感じられるのは、胃がふくらんだためである。

もう1つは、”血糖値の上昇”だ。ご飯やパンなど、糖分を含む炭水化物などを食べると、血液中の糖分の濃度が高まる。どんなにおかずや野菜をたくさん食べても、主食を食べないとイマイチ満足感に欠けるのは、血糖値の上昇が不十分だからである。

胃のふくらみ具合や血糖値の上昇は、いずれもホルモン分泌や血液を通じて、脳の「視床下部」と呼ばれる部分で検知されている。

このような方法で、体は満腹状態を検知する。しかし、他の刺激によって、主観的な満腹感は変化することがあるのだ。この記事では、満腹感に影響を与える4つの食事環境を紹介する。

満腹感を変える4つの環境

(1)気温

気温が高い環境下では、気温が低い環境下よりも、食べる量が減ることが知られている。この原因は、体温調節にあると考えられている。

私たちが体温を一定に保つためには、汗をかいたり血流を通じて皮膚から熱を発散させる必要がある。周囲の気温が高い時によく汗をかくのも、体温を下げるためである。

一般的に、食事は体温をわずかに上げる。高温環境では、ただでさえ外気の暑さで体温が上がるのを防ぐことに必死なのに、食事によっても体温が上がってしまうと、ますます下げなければならなくなる。これを防ぐために、高温環境では早く満腹を感じるようになっているのだ。

(2)照明

照明が明るいレストランよりも、照明が薄暗いレストランのほうが、食事量が増加することが知られている。

また、ある実験では、明るい照明では魚や野菜など健康的な食品を選ぶ比率が高かったのに対し、薄暗い照明では揚げ物やデザートなど不健康な食品を選ぶ比率が高かった。これは、照明が暗いことが、食品への注意を鈍らせ、後先を考えた選択を阻むためだと考えられている。

さらに、照明の色が食欲に与える影響を調べた研究では、赤・青・緑、いずれも色が濃いほど食欲が低下することが明らかになっている。

(3)BGMや騒音

静かな環境のほうが、テレビの音や騒音がする環境よりも、食事量を減らすことができる。これは、食べ物を噛む時の音がよく聞こえるほど、「食べること」に意識的になり、食事の満足感につながりやすいためだと考えられている。

このように、食べ物の音を自分にフィードバックさせると食事量が変化することは「クランチ効果」と呼ばれている。

また、BGMが流れているレストランの場合は、音楽を快適に感じるほどレストランでの滞在時間が伸びて、結果的として食べる量が増えるという説もある。

(4)一緒に食べる人

一人よりも誰かと一緒に食事をするほうが、食事量が増加することが知られている。

これには、様々な理由が関係している。一つは、会話の発生などに伴い、食事時間が長くなるためだ。その場に長く居続けるためにデザートやドリンクなどの注文が増えるのである。また、会話や対人そのものに脳の注意が割かれることで、食事の味や満腹感に対する認識が低下することも一因であると考える。

もう一つは、相手の食べる量を観察しながら自分が食べる量を調節するためである。人間は、無意識に他人の動作を真似てしまうことがあり(ミラー効果)、食事中も例外ではないのだ。食欲がない時でも、モリモリ食べる人と食事に行くと、自分も案外食べられたりするものだ。


このように、私たちが普段意識していないような環境刺激が、食事量や満腹感に影響を与えていることがある。食べ過ぎを防ぎたい人は、食事の内容と共に、食事環境を見直してみるのも一つの手だろう。

執筆:大嶋絵理奈

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