食べた料理を忘れてしまう心理学的な3つの理由

どんなに美味しい料理を食べても、その味をいつまでも記憶しておくことは難しい。食べ物の味を思い出そうとしても、思い浮かんでくるのは、食事のシチュエーションや、食事中に起こった何らかの”体験”など、一部の情報だけではないだろうか。

その時確かに美味しいと感動した料理を思い出せないのは寂しいことである。しかし、ある意味では、心理学的に仕方ない現象なのだ。

そもそも何を食べたっけ?:初頭効果と新近効果

コース料理や懐石料理のように品数が多いと、そもそも何を食べたかを忘れてしまう場合もあるだろう。これには、脳のしくみが関係している。

全ての情報を事細かに記憶するのは効率が悪いため、人の脳は、記憶に残す時には「情報の編集作業」を行う。つまり、情報を加工して、一部の内容だけを覚えておくようにするのだ。

その1つが、初頭効果と新近効果である。これは、ある物事の「始まり」と「終わり」の部分だけを切り取って覚えておくという現象である。

よく、「復縁したければ、”最後の印象をよくするために”、良い人を演じて別れろ」というアドバイスを見かける。これはまさに、新近効果を狙っているのである。終わりの印象が良ければ、元恋人の中であなたが「良い人」として記憶に残る可能性があるからだ。

料理もこれと同じで、食事の記憶は、最初の印象と最後の印象だけが残ってしまいがちである。コース料理であれば、最初の一皿やデザートの印象が残り、中間に出てきたスープや魚料理などは思い出しにくいのである。

裏を返せば、品数の多い料理を提供する人は、最初と最後の1皿に注力することで、人の記憶に残しやすいと言えるだろう。

一品だけなら覚えている:ピークエンドの法則

また、アラカルトなどで複数の料理を食べた場合でも「あの店は、お肉がとにかく美味しかった!」といった具合に、一つの料理の印象だけが残っている場合もあるだろう。これも、脳の記憶の仕方が関係している。

先に述べた以外の記憶の残し方として、感情が最も動いた瞬間(ピーク)だけを切り取るというものがある。これは「ピークエンドの法則」と呼ばれている。恋愛であれば、元恋人との出来事を思い出す時に「一番楽しかった(または辛かった)出来事」を思い出しやすく、食事であれば、その時食べた中で「一番美味しかった(またはまずかった)料理」を思い出しやすいのだ。

「お肉がとにかく美味しかった!」と印象が残った場合は、お肉の前後に食べた料理や、お肉のプレートについていた野菜類などよりも、お肉が最も美味しく感情が動いた料理だったことを意味している。そして、時間が経つにつれ「あの店=お肉が美味しい店」というシンプルな記憶に変わっていく。これも脳が効率よく記憶するためのしくみなのである。

コース料理では、最初と最後の1皿が記憶に残りやすいと述べたが、コースの中盤に出てくる料理でも、ずば抜けて美味しく感動をもたらす料理である場合には、記憶に残りやすいと言えるだろう。

最初の2、3口しか記憶しない!?:持続時間の無視

料理を食べ終えた直後には満足感を感じることだろう。その満足感はまぎれもなく、食事がおいしかったから生まれたものである。しかし、ついさっきまで食べていた料理の味をいざ思い出そうとすると、案外難しくはないだろうか。

食べ終わった途端に味を忘れてしまう現象は、丼ものやラーメンなど、同じ味ずっと続くような料理の時に起こりがちである。これは「持続時間の無視」という現象のためだ。

最初の2、3口は「魚介の旨味が濃厚で美味しい!」と感じたとしても、その刺激が変化することなく最後まで続く場合には、10口目とか20口目のことは記憶に残らないのである。最後の一口なんかは、特に記憶が残りにくいため、食べ終わった直後にその味を思い出すことが難しいのだ。

この現象は「注意」という面からも説明ができる。人の味覚は本来、食べて良いものと食べてはいけないものを見分けるために発達した。最初の1口2口は、安心して食べられるものであるかを判断する必要があるので、そこに集中(注意)が向く。しかし、安心できるものだと分かれば、食事を共にする人との会話やスマートフォンの操作などに注意が向き始める。食事の味がずっと同じである場合、その傾向は強まると言えるだろう。

このため、大きなお皿に単一の料理をドーン!と盛るような提供の仕方をする場合、食べた人の中には、実は最初の数口で感じた味しか記憶に残っていない可能性があると言えるだろう。


脳は基本的に省エネをしたい器官であり、情報の一部をカットして記憶するのは省エネ法の1種である。脳の省エネに負けずに人の記憶の中に残る料理を提供するためには、”脳のクセ”に理解を深める必要があるだろう。

執筆:大嶋絵理奈

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